忘れられないクリスマス

7年ほど前のことです。
体調を崩した私は退職し、就職活動を行っていました。

その冬は、例年よりも寒い日が続いていました。

朝6時。
先輩からの電話で目が覚めました。

学生時代の先輩で農業をされている方です。

「お前、どうせ暇だろ?
 今日は俺の片づけを手伝ってくれないか?
 昼飯はおごるからさ」

どうせ暇だろ?
という言葉に抵抗がありましたが
先輩からの頼みを断るわけにはいきません。

言われるままに
ビニールハウスの撤去を手伝い、
鉄柱をトラックに積んでは
鉄くずを回収会社に運びました。

午後になると寒さと疲れで
全身がガクガクになりました。

先輩は容赦なく、私に作業を続けさせます。

不満の気持ちが高まって来ました。

「何だよ。
 先輩だからって俺をアゴで使っていいのか?
 昼飯をおごってくれると言っても
 こんな仕打ちはないだろ。」

言葉にこそ出しませんでしたが
表情や態度に出てしまっていたと思います。

夕方になると小雨が降って来ました。

トラックの車窓から見えて来た街並みには
クリスマスの
イルミネーションが輝いていました。

楽しそうに歩いている人々を見ては
自分のことが情けなく思えて来ました。

19時。
ようやく最後の荷物を、
回収会社に運び終えました。

「事務所に行って、
 鉄の買取金を受け取って来てくれ」

助手席に乗っている私に先輩が言いました。

「〇万〇〇〇〇円です」
そんなになるんだと驚きました。

封筒に入ったそのお金を先輩に渡すと、
先輩は、それを、そのまま私に差し戻して
こう言いました。

「お前、今日はクリスマスだぞ。
 これでお前のやんちゃな子供たちに
 おもちゃでも買ってやれよ。
 今日ぐらいは
 父親らしいことをしてやれよ。」

思わぬ言葉に、声を失いました。

そして先輩に不満を持った自分が恥ずかしく、
情けなく、申し訳なく、涙が溢れて来ました。

ドロドロに汚れた作業着のまま
デパートに向かいました。
大喜びする子供たちの顔が浮かんで来ました。

忘れられないクリスマスとなりました。

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